夏場の汗疹・虫さされ・とびひ、冬場の乾燥肌、水いぼ、おむつかぶれなど、小児科でも皮膚の診察は日常的に行われています。特に、夏場皮膚科が大変混み合いますので、気楽にご相談下さい。
当院では、アトピー性皮膚炎のお子さんには、プロアクティブ療法(後解説1)での指導を心がけています。
また、視診だけでなく、皮膚の水分量(皮膚の水分量を計測する簡易検査器を使い)を測ったり、血液検査(IgE値やRASTスコア)やTARC値(後解説2)、亜鉛値など客観的指標も使いながら、治療しています。
プロアクティブ療法(解説1)
主にアトピー性皮膚炎に用いられる予防的な治療法の一つ。何度も繰り返す皮膚炎に対して、急性期の治療によって症状が治まったのちに、保湿外用薬によるスキンケアに加えて、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬などの外用薬を定期的に塗布することで、寛解状態を維持する方法の事を言います。これに対し、炎症がふたたびみられた段階で抗炎症外用薬を再開し、症状をコントロールする方法をリアクティブ療法と言います。
アトピー性皮膚炎では、炎症が軽快して一見正常にみえる皮膚にも、組織学的には炎症細胞が残存し、潜在的な炎症状態にあると言われています。この段階では抗炎症外用薬をそのまま継続する、あるいはプロアクティブ療法を行うことで、再び炎症が起こるのを予防できることが多い事が近年分かってきました。しかし、プロアクティブ療法はあくまで後から行う治療であり、まず寛解導入を確実に行うことが前提です。寛解導入期の外用療法で重要な点は,症状に応じた適切なステロイド剤の選択と塗布量が重要です。外用薬では内服薬のように用法・用量が明確に指示されにくいのですが、治療効果に直結する重要なポイントであり、フィンガーチップユニットFTU)などを目安に、十分量を1日2回以上塗布することを指導します。寛解維持期では、湿疹ゼロ状態を維持しながら予防的にステロイド外用薬やプロトピック軟膏を間欠塗布しますが、間欠期には皮膚バリア機能と水分保持のために保湿剤もしっかり塗布することが重要です。外用薬の連日塗布から、プロアクティブ療法への移行は、皮膚炎が十分に改善してから実施する。塗布の範囲や、連日塗布から週2・3回程度の塗布への移行時期、終了時期については症例ごとに決めていく、副作用の発現についても注意深く観察していく事が重要です。
『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2016年版』でも、プロアクティブ療法は、有用かつ比較的安全性の高い治療法と評価しています。
TARC(解説2)
白血球の生体内移動や浸潤を誘導するケモカインの一種です。
Th2 細胞を局所に遊走させて、IgE産生や好酸球産生を活性化させ、アレルギー症状を引き起こします。血清中のTARC濃度は、アトピー性皮膚炎の病態を反映して短期間に変動し、症状が悪化するほど著明に上昇し、軽快に伴って低下します。
病態の評価だけでなく、治療効果のモニタリングにも有用な指標です。
普段お子さんの体は、どんな洗い方をしていますか?
(A)敏感肌なので、石鹸は使ってない。
(B)アトピー用の無添加の特別な石鹸
(C)市販の泡で出る石鹸
正解は、診察室でお答えしましょう。
当院では、『洗う派』になりますが、分かり易い解説がありましたので、詳しくは、ご参照下さい。
https://www.buzzfeed.com/jp/kentahorimukai/atopicdermatitis-bathing-skincare?utm_term=.ak739j5Wv
以下が、要約です。
夏はアトピー性皮膚炎が悪化する季節です。
日本アレルギー学会のガイドラインには、「通常は皮膚の清潔には入浴・シャワーを励行し、必要に応じて適切な保湿・保護剤あるいは抗炎症薬を使用する」と記載があります。
ところが、医師により「洗う」「洗わない」の指導が分かれることがあり、混乱しがちです。
そこで、子どものアトピー性皮膚炎の治療における洗浄に関して解説します。アトピー性皮膚炎の場合、洗うべきか洗わざるべきか迷う人は多い
アトピー性皮膚炎は、どの季節に悪化しますか?
夏は、「暑くなってから、皮膚をかゆがって良くなりません」「”あせも”が増えて悪化するようになりました」と受診される患者さんが多くなる季節です。
汗は、アトピー性皮膚炎の悪化要因としてガイドラインにも記載がありますし、そもそも余分な汗は、長時間放置すると汗疹(あせも)を作ります。そのため、汗には「悪者」イメージが強いでしょう。
そんな悪者イメージの強い汗ですが、最近は「良い面もある」というデータも出てきています。アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能が低くなることをきっかけとして発症したり悪化したりします。汗はそれ自体が水分ですし保湿成分も含むため、夏場はむしろ改善する方もいます。
実際、小児アトピー性皮膚炎がどの季節に悪化するかを調査すると患者さんによって差があり、39人中、夏に悪化する方が18人、冬に悪化する方が21人だったそうです。
つまり、夏悪化する、冬悪化する方それぞれ同じくらいいらっしゃるということですね。アトピー性皮膚炎のスキンケアは、洗うのが正しい?洗わないのが正しい?
汗ひとつ取っても「良い面」「悪い面」があるように、アトピー性皮膚炎のスキンケアにおける洗浄に関し、医師の間でも意見が分かれることがあります。
実際、『アトピー性皮膚炎のお子さんを毎日入浴させるべきか?』という問いに関し、米国小児科学会会員(プライマリケア医が中心)は21%、米国小児皮膚科学会会員(専門医が中心)は71%が毎日の入浴を推奨し、意見が180度異なったと報告されています。
そのため、患者さんも「A病院では洗ったほうがいい」と言われ、「Bクリニックでは洗ったらダメ」と叱られるし、どちらが正しいのかよくわからなくなっている方がいらっしゃいます。
なぜ、アトピー性皮膚炎のスキンケアにおいて、「洗う」「洗わない」で意見が分かれてしまうのでしょう? そこで今回は、私見も交えてアトピー性皮膚炎のスキンケアにおける洗浄に関して考えてみたいと思います。アトピー性皮膚炎と黄色ブドウ球菌
アトピー性皮膚炎は皮膚の感染症が増えることが知られており、例えば膿痂疹(一般には”とびひ”と呼ばれます)は1.8倍も発症リスクが高くなるという報告があります。
そして、とびひの大部分は黄色ブドウ球菌が原因です。黄色ブドウ球菌はアトピー性皮膚炎があると皮膚に定着するリスクが20倍になり、アトピー性皮膚炎が重症であるほど増え、定着している黄色ブドウ球菌の密度が高くなるほど食物アレルギーのリスクも高くなるという報告があります。黄色ブドウ球菌
黄色ブドウ球菌は、それ自体がアトピー性皮膚炎の発症に関連することもわかってきて、重症のアトピー性皮膚炎の患者さんから採取した黄色ブドウ球菌をマウスに移植すると、重症のアトピー性皮膚炎を発症するという報告さえあります。
すなわち、アトピー性皮膚炎が悪化すると皮膚に増えやすい黄色ブドウ球菌は減らしたほうがよいと考えられます。
とびひに関して抗菌薬を使用する場合が多いのは確かで正しい治療法です。
しかし、アトピー性皮膚炎のために定着しているだけの黄色ブドウ球菌への抗菌薬の使用は注意する必要があります。アトピー性皮膚炎のじくじくした湿疹の多くは、スキンケアや皮膚の炎症をへらす治療だけで改善することもわかってきているからです。
例えば、じくじくした湿疹のあるアトピー性皮膚炎の子ども113人を、ステロイド外用薬の使用に加えて、①抗菌薬内服、②抗菌薬外用、③抗菌薬を使わないグループに分けて2週間後の治療効果を比較した検討では、改善程度に差がなかったと報告されています。
この理由として、皮膚が改善してくると、もともと人間と共存している菌から作られる「抗菌ペプチド」という物質(天然の抗生物質のようなもの)が黄色ブドウ球菌の増殖を抑えることが挙げられます。
そのため、ひどくなったアトピー性皮膚炎は石けんで洗浄をしてステロイド外用薬などを使用し炎症を良くする必要があるのです。アトピー性皮膚炎と入浴
では、アトピー性皮膚炎の重症度に、入浴頻度や入浴時間が影響するでしょうか?
暑い季節、入浴させてあげたくなるが・・・
夏の時期は汗の悪い面が出やすい季節ですし、シャワー浴がアトピー性皮膚炎の改善に働くという報告がいくつもあります。
例えば、平均4.7歳のアトピー性皮膚炎患の子ども96人に対して、入浴を1日1回きちんとしたグループの方がアトピー性皮膚炎の改善が良かったという結果や、アトピー性皮膚炎の小学生53人に対し、昼休み中にシャワーを追加すると症状が改善したという報告があります。
ただ、入浴時間に関しては、長時間になるほどアトピー性皮膚炎の悪化に働くという報告があり、皮膚の乾燥を悪化させてしまうのかもしれません。浴槽にはいる時間は短時間にとどめたほうがよさそうです。では、石けんに関してはどうでしょう?
石けんは黄色ブドウ球菌をへらす作用がある一方で、皮脂を落とし、皮膚を乾燥させる作用があります。すなわち、アトピー性皮膚炎に良い影響も、悪い影響も起こす可能性があることになります。
石けんは使わないようにという説明をされる医師はその悪い面を考慮されているのでしょう。特に、皮膚機能が成熟していない赤ちゃんに対し石けんを使用しないように指導される場合も見受けられます。
むしろ、石けんを使用したグループと水のみで洗浄したグループに対して、28日目に「このスキンケアを続けますか?」という質問を行うと、水のみで洗浄したグループでは匂いが気になるという保護者が有意に多く、石けん洗浄への変更をより多く希望したと報告されています。
これらの結果から、石けんで洗ってそのままにするのは乾燥を助長する可能性があるので、保湿剤をしっかり塗ることを併用することが勧められます。
さらに、保湿剤をきちんと塗ると皮膚の黄色ブドウ球菌が減り正常な菌が回復することも報告されていますので、自分自身から作る抗菌ペプチドで皮膚への感染から身を守ることが期待できるでしょう。私は、このような保湿剤による対策を行えば、石けんに関して過剰に心配する必要はないと思っています。保湿剤は、必要ですか?
とはいっても、保湿剤を毎日塗るのは大変ですよね。でも、大切なことですのでアトピー性皮膚炎に対する保湿剤の必要性に関し、説明を追加したいと思います。
まず、生後1週間以内の赤ちゃんに対し、保湿剤を毎日塗っていくとアトピー性皮膚炎の発症が3割減るという報告があります。
さらに、皮膚のバリア機能が生まれつき低い方がアトピー性皮膚炎を発症しやすいものの、保湿剤をきちんと塗っているとバリア機能が低くても発症しにくくなるとも報告されています。保湿剤により、アトピー性皮膚炎の発症リスクを下げられるわけです。
そして、発症したアトピー性皮膚炎に対してもまた、保湿剤の有効性が明らかになっています。例えば2〜12歳のアトピー性皮膚炎の子ども64名に対する報告では、保湿剤をきちんと塗るほうがアトピー性皮膚炎の悪化を有意に減らすことができると証明されています。
保湿剤は、発症を減らし悪化も防ぐことが判明しているといえるでしょう。ただ、それでも保湿剤を塗るのは手間ですので、保湿入浴剤で代用できないかもご質問を受けることがあります。
しかし保湿入浴剤に関しては、482人もの小児アトピー性皮膚炎に対する研究結果が最近報告され、効果は乏しいのではないかという結果でした。保湿入浴剤は使うことは構わないと考えますが、やはり、しっかりと保湿剤を塗ったほうがよさそうです。水道水やプールの塩素に関してもご質問を受けることが多いです。
塩素(水道水やプールの消毒薬の一種)は、黄色ブドウ球菌のバイオフィルム(菌を守る膜のようなもの)を減らす作用があることから、アトピー性皮膚炎に対する効果が期待されます。
しかし、最近行われた、うすめた塩素による入浴でアトピー性皮膚炎の改善をみた研究では改善に差がなかったとされており、さらに過去行われた複数の研究をまとめた報告でも結論はだせていません。
そのため私は、アトピー性皮膚炎に対して、うすめた塩素による治療は、今のところ勧めていません。
塩素を使用するプールに関しては、アトピー性皮膚炎が2.7倍程度悪化する可能性があるという報告があります。おそらくプールの水は塩素以外にも多くの化学成分や汚染物質が含まれますので、アトピーに悪い作用があるのでしょう。
できればプール後にはきちんとシャワーで流してから保湿剤を塗ったほうが良いと考えられます。
「洗う」「洗わない」問題。どちらが正しいと白と黒にわけること自体に無理があります
さて、ここまでお話してきて、皆さんはどうお感じになったでしょうか?アトピー性皮膚炎のスキンケアにおける「洗う」「洗わない」問題、どちらかに白黒をつけようとすること自体に問題があると思われませんか?
アトピー性皮膚炎にも、重症度やステージがあり、「洗浄したほうが良い」場合と、「洗浄は控えた方が良い」場合があるのです。
最初にあげた、一般小児科医と専門医で意見が分かれたのは何故かということも、もう皆さんおわかりと思います。診療しているアトピー性皮膚炎の重症度が違った可能性があります。
軽症の患者さんを中心に診療している医師は「洗浄しないほうが良い」と指導するでしょうし、重症の患者さんを多く診ている医師は「洗浄したほうが良い」と説明することが多いのは、普段の臨床上の実感からでているのだろうと予想されます。最後に
ガイドラインには、「皮膚の状態に合わせた石けん・シャンプーなどの選択および入浴やシャワー後のスキンケア外用薬の塗布、汗対策」と記載されているものの、詳細に関して具体的な説明は不十分です。
それは、同じアトピー性皮膚炎という病名でも重症度やステージで対応が変わるため、それぞれに考えていきましょうというメッセージなのだと私は捉えています。
とはいえ、夏は汗をかきやすく汚れがたまりやすい、首・脇・おしも・関節を曲げる箇所などは十分泡立てた石けんでやさしく洗い、十分流したほうが良いですよとお話することも多い理由もよくおわかりになったかと思います。
今回の記事が、それぞれのアトピー性皮膚炎のお子さんのスキンケアに対し、考えるヒントになれば嬉しく思います。【堀向健太(ほりむかい・けんた)】東京慈恵会医科大学葛飾医療センター小児科助教
軟膏やクリームは、どの位の量を縫っていますか?
(A)できるだけ、伸ばすように擦り込んでいる
(B)指示されないので、大体の感覚で使い切るまで
此処で、ステロイド外用を含めた塗り薬の目安を確認しておきましょう。
当院ではFTU(Finger Tip Unit)とという単位で外用することをお勧めしています。 下図のように1FTUは自分の人差し指の第一関節まで出した軟膏量で、手のひら2枚分の面積に塗る量に相当します。
これを朝、夕 1日2回、病変部位に塗布しTARC値が正常化するまで皮膚症状をコントロールします。